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幸福の社会的条件に関する調査研究
ある社会集団の幸福観や個人の幸福感が多様であり、何を幸福と捉えるかに関しても、時間の経過とともに変化が生じる。このような幸福の社会的条件を探るためには、国際比較調査や地域間比較調査を行う必要がある。しかし、今まで行われてきた国際比較調査は、「世界価値観調査」に代表されるように、調査企画の中心である欧米の価値観が色濃く投影されている。本拠点では、それぞれの地域に応じた調査方法が採られなければ、ある地域に固有の価値観、幸福観は理解できないし、地域間、国家間の差異もわからないという視点に立ち、新たな社会調査研究の地平を切り開くべく研究を進めている。具体的には、以下のような研究プロジェクトがある。
本拠点では、旧来から行われてきた調査手法に主体的に関わる一方、新たな調査のかたちを海外拠点と連携しながら模索している。前者については、たとえば「世界価値観調査」のような国際比較調査に関する国際的ネットワークにおいては、単に欧米を中心とした価値や発想に基づいた調査デザインでは、価値の多様性を量ることはできないという視点を貫き、日本の現状に見合った質問項目を提示するかたちで、旧来の調査のありかたに改編を迫っている。
一方で、国際比較とは異なる地域間比較調査を、海外の研究・教育拠点との共同調査によって進めている。そこでは、可能なかぎり、地域住民と協力するかたちで(地域住民の「調査力」と呼んでいい)、地域の幸福とは何かを問う調査を行っている。
また、幸福は、地域間比較のように空間的に捉えるだけでなく、長い時間的スパンのなかで捉える必要がある。そこで、村のような特定の社会集団が記録したさまざまな資料に基づき、データベースを構築しながら、歴史のなかで価値がいかに変容しているのかを研究している。
異なる幸福観が生み出すコンフリクト、暴力に関する研究
問題が生じやすいのは、異なる「文化」に属する個人や集団が同一の空間で遭遇するような状況である。このようなとき、異なる個人、集団間の「共生」は容易ではなく、ときには暴力が噴出することさえある。本拠点は、特にこの点について、異なる地域に関する経験的な調査データや比較研究を踏まえて、分析していくことをめざしている。
具体的なテーマとしては、「戦争」(戦争が遺したさまざまな傷跡の問題)から「いじめ」や「児童虐待」、社会的差別や外国人労働者の問題、そして近年広まりを見せる「監視カメラ」の問題に至るまで、さまざまな問題が研究されている。
このように、暴力の問題が「人類の幸福に資する社会調査に関する研究」において中心となったのは、われわれが、幸福の阻害要因としてのさまざまなタイプの暴力を研究することが「人類の幸福に資する」という信念を抱くようになったからである。それは、幸福ではなく、不幸を研究することであるが、平等を築くために不平等を研究し、豊かな社会を築くために貧困について研究するように、幸福に資するためには、不幸を直視していかねばならないのである。
新たな調査法の開発
幸福に資する社会調査とは何かを考えていくと、既存の調査法や論文による調査結果の公開だけでは、不十分だということがわかる。特に、幸福感や幸福を阻害されているときの感情、そしてそれを生み出す社会的環境を明らかにするのは難しい。したがって、新たな調査法を開発する必要性が生じてくる。
本拠点では、いじめ自殺を調査していくうえで、映像、特にアニメーションに着目し、アニメによる調査を行っている。いじめから自殺に至るまでの過程をリアルタイムで調査することは不可能であり、暴力はそもそもそれを言語化するのが難しいため、アニメの特徴を活かした理念的な映像を制作し、それをもとにインターネット調査を行う新たな調査法を開発している。
想像力に支えられた未来像へ
以上のような研究から、本拠点は、21世紀の未来像を描こうとしている。異文化の共生を可能にするのはいかなるものか、それは制度設計によって可能になるのか。地域が異なれば、未来像も異なるだろう。未来について語り、そのための指針となるような指標を可能であれば数理的に表現し、未来像を社会に還元していく学問が、今日求められている。本拠点は、これに応えようとするするものである。